顧客に感動を与える「伝説のサービス」は本当に意味があるのか?

顧客満足を語るとき、必ず出てくる「伝説のサービス」がある。有名なのは、リッツ・カールトンのエピソードだ。
リッツ・カールトン大阪に宿泊した大学教授が、東京での講演で使う大切な資料と眼鏡を部屋に忘れてしまった。すでに新幹線の中だった教授からの連絡を受けた従業員は、上司の許可を待たずに自らの判断で新幹線に飛び乗り、東京駅で資料を直接手渡した。
他にも、任天堂、CoCo壱番屋、ANA、JALなど、この手の伝説のエピソードはいくらでもある。
ちなみに、有名な「ロールス・ロイスの故障エピソード」は都市伝説らしい。(砂漠を横断中に車が故障し、メーカーに連絡するとヘリコプターで新車を運んできて「私どもの車は壊れませんので、故障などありません」と答えた話)
感動エピソードに共通する3つの要素
これらの伝説に共通するのは、単なる「親切」ではなく、以下の3つが組み合わさっている点だ。
・マニュアルを静かに超える柔軟性
・目の前の「個人」に対する深い関心と共感
・現場スタッフがその場で意思決定できる裁量権
なるほど、たしかにそうだ。カスタマーサクセス界隈では、こういう話を聞かされるたびに「よし、うちも顧客に感動を!」となりがちだ。でも、実はここに衝撃的な話がある。
顧客を感動させてもロイヤリティ(忠誠心)は増えない
これは私が勝手に言っているのではない。マシュー・ディクソンらの著書『The Effortless Experience(邦題:おもてなし幻想)』も言っている。同書は、97,000人の顧客データを分析した調査を元に、こう結論づけている。
企業は、顧客を感動させればファンになると信じている。でも実際は違う。感動レベルのサービスと、普通のサービスで、ロイヤリティにほとんど差が出ない。
さらに、こういう数字も出ている。
・解決に「高い労力」を強いられた顧客が不信感を強めた割合は 96%
(低い労力で済んだ顧客はわずか 9%)
・「低い労力」で済んだ顧客のうち、再購入すると答えたのは 94%
(高い労力を強いられた顧客はわずか 4%)
・「低い労力」で済んだ顧客のうち、支出を増やすと答えたのは 88%
(高い労力を強いられた顧客はわずか 4%)
つまり顧客は、感動なんて求めていない。求めているのは、
「期待したことがちゃんと提供されること」
「ダメなら、ちゃんと説明があること」
これだけだ。
毎回感動を与える必要なんて、そもそもない。
深々と頭を下げていた店員
TVで、お客さんが車で店を出ていく時、店員が「ありがとうございました」と言って、いつまでも深々と頭を下げていた。それを指導していたコンサルの人が、頭を下げている秒数まで数えていた。
正直、アホくさいと思った。実際、そういう感想をYouTubeで発信したら、ちょっとアンチみたいな反応も来た。(感謝の礼であって、買わないからやらない。とかそういうのではない!と言われた)
でも冷静に考えてほしい。どれだけ深々と頭を下げても、客は買わない。
それを見てる周りの人も、「あそこの店は深々と頭を下げる」という理由で買うのだろうか?買わないだろう。実際、私も一回だけ、見送りで深々頭を下げたこともあったが、その人は、もう二度とうちには来なかった。だから私は、車が立ち去るまで見送ったりしない。
つまり「お辞儀の深さ」は、感動を演出しているようで、実際には何の意思決定にも影響していない。
私は道路に出てまで頭を下げる必要はないと思ってる。ムダだ。
どうせ、そんな事を言うのは、現場で頭を下げる本人ではなく、ふんぞり返ってる上司だ。
感動ではなく「代行」
私は蓄電池の販売で、太陽光ユーザーの蓄電池販売で同業他社の2倍の実績を出していた。理由ははっきりしている。
「面倒くさいことは、全部私に任せてください」と言い続けたからだ。
太陽光発電、蓄電池ともに、「何か困ったことがあったら、真っ先に私に連絡ください。私が全部解決してみせます」と言っていた。
だから、お客さんからは
「太陽光発電でエラーが出た」
「関西電力から『今月、売電0円だから確認して』というはがきが届いた」
「訪問販売の業者からメンテナンスした方が良いと言われた」
「エコキュートからお湯が出ない」
「IHの通気口に塩をこぼしてしまった。大丈夫かな?」
など、たくさんの連絡を受けた。
お客さんは、メーカーに連絡するのも面倒。手続きも面倒。分からないことを調べるのも面倒。この面倒事を全て代行してやっていた。
正直に言って、「太陽光発電がエラー出てる!」と言われても私は直しようがないし、お客さんの家に行っても、エラーの原因なんてわからない。
お客さんの代わりに、メーカーに連絡して出張修理のお膳立てをしているだけだが、お客さんから喜ばれた。そういう「顧客の労力」を、全部こちらが巻き取っていた。「私の方からメーカーに連絡するので、メーカーから電話があるのを待ってください」と伝えるだけ。
面倒くさい手続きを代わりにやる。これだけで、他社と結果が変わる。
うちだけ蓄電池の売上が良かったのも、このせいだと思っている。感動を演出することにコストをかけるより、「面倒を引き受ける」ことにコストをかける方が、よっぽど顧客に効く。
「労力ゼロ」がロイヤリティを生む
・感動エピソードは美しい
・しかしロイヤリティは上がらない
・顧客努力がロイヤリティを決定する
・顧客は期待以上を求めていない
・約束されたものが手に入り、手間がなければそれでいい
・深々と頭を下げるより、顧客の面倒を消す方が価値がある
・「全部任せろ」が最強のロイヤリティ戦略
顧客は感動ではなく、「自分の人生を楽にしてくれる存在」に忠誠心を持つ。
そして、それこそが、私の営業が強かった理由であり、蓄電池が売れた理由でもある。

