大和ハウスの地方撤退から読み解く、日本の新築戸建て市場の未来予想図

2026年9月3日、大和ハウス工業が新築一戸建て住宅事業について、北海道から鹿児島までの23道県から撤退し、2027年4月をめどに東京・大阪など都市部に集中させる方針を発表した。

かつては全国どこでも家を建ててくれた大手ハウスメーカーが、地方の一般層を明確に切り捨て、都市部の高価格帯へリソースを集中させる。中堅ハウスメーカーの倒産も相次ぐ中、この動きは業界全体にとって何を意味するのか。

この記事では出典と決算期を明記した数字をみて、業界の現在地と未来予想図を整理する。


1. ハウスメーカーの「絶頂期」はいつだったのか

まず前提として押さえておきたいのは、「量のピーク」と「金額のピーク」がまったく別の時期にあるという点だ。

日本の新設住宅着工戸数が最も多かったのは、暦年ベースで1973年の190.5万戸、年度ベースで1972年度の185.6万戸。翌74年度は第一次オイルショックの影響で前年比28.5%減の126.1万戸に急減している。

ハウスメーカーという工業化住宅の業態そのものが量的に最も栄えたのは、1980年代後半〜1990年代前半のバブル期である。この時期は年間80万戸以上の着工が4年間続き、積水ハウス・大和ハウス・セキスイハイムといった量産型プレハブメーカーが全国展開・大量生産モデルで急成長した。

一方で紛らわしいのは、金額(売上高)ベースでは「今」が過去最高という点だ。積水ハウス・旭化成ホームズ・住友林業・セキスイハイムは、2025〜2026年の決算で軒並み過去最高売上高を更新している。

つまり、

  • 棟数(量)の絶頂:1990年前後
  • 金額(売上高)の絶頂:現在

という二重構造になっている。この乖離を生んでいるのが、海外M&A(米国・豪州)、単価上昇による高付加価値シフト、リフォーム・都市開発・不動産仲介などストック型事業への多角化だ。国内の新築戸建て「単体」だけを見れば、多くの大手で横ばいか微減が実態である。


2. 大手ハウスメーカー各社の現在地(直近決算)

会社名 決算期 連結売上高 備考
大和ハウス工業 26年3月期 5兆5,768億円 戸建て事業売上1兆3,422億円(前期比17.3%増、米国牽引)。国内戸建て販売は4,867戸にとどまる
積水ハウス 26年1月期 4兆1,979億円(過去最高) 戸建住宅事業単体は4,789億円(前期比横ばい)。棟単価5,248万円→5,642万円に上昇
住友林業 25年12月期 2兆2,675億円(過去最高) 増収減益。国内住宅事業は堅調も、米豪事業の利益率低下が響く
旭化成ホームズ 26年3月期 1兆343億円(初の1兆円超え、5年連続最高) 戸建て系受注はマイナス、集合系がカバー
セキスイハイム(積水化学住宅カンパニー) 26年3月期 5,362億円(前期比2.3%増) 営業利益371億円(同17.9%増)。高価格帯戸建て・集合住宅が牽引
一条工務店(非上場) 2024年度 5,664億円(前年度比5.4%増) 営業利益413億円(同19.4%増)。高断熱・高気密の性能特化戦略
タマホーム(ローコスト帯) 26年5月期 1,977億円(前期比1.5%減) 3期連続の減収減益。主力の注文住宅事業は営業損失(10.7億円の赤字)に転落、戸建分譲事業の増益(前期比48.1%増)が下支え

 

※パナソニックホームズは、トヨタ自動車との合弁会社「プライムライフテクノロジーズ(PLT)」傘下(2020年統合)にあり、単独の売上高・利益を開示していない。統合の理由自体が「新設住宅着工戸数の減少に伴う競争激化を見据えたもの」と説明されている。ここが今回の記事で最も強調したい点で、個社で戦うことをやめて、まとまって生き残る道を選んだ会社がすでにあるということだ。


3. ランキングで見る現在地

3-1 総販売戸数ランキング(2025年度、住宅産業新聞集計・大手10社)

  • 1位:大和ハウス工業 3万1,085戸(戸建て+アパート+マンション合計、前年度比3.6%減)
  • 2位:積水ハウス
  • 3位:プライムライフテクノロジーズ(パナソニックホームズ・トヨタホーム・ミサワホーム合算)
  • 4位:セキスイハイム(アパートが伸び前年から浮上)

大手10社合計の総販売戸数は前年度比3.9%減の11万5,391戸、うち戸建てのみは同4.7%減の4万7,443戸。総販売戸数が前年度を上回ったのは住友林業のみだった。

戸建て販売戸数だけで絞ると、首位はPLT(9千戸台)、2位が積水ハウス(4%減)、3位が住友林業(2%増)となる。「積水ハウスが戸建てトップ」という情報がネット上には出回っているが、住宅産業新聞の集計ではPLTが首位であり、この点は事実関係を訂正しておきたい。

なお、この10社ランキングとは別枠になるが、非上場の一条工務店は2024年度で1万7,345戸、飯田グループホールディングス(建売中心のパワービルダー6社連合)はグループ合計3万8,187戸と、業態は異なるが規模では最上位級にある。

3-2 売上高ランキング(直近決算)

  1. 大和ハウス工業:5兆5,768億円(グループ全体。総合デベロッパー化しており戸建て比率は低い)
  2. 積水ハウス:4兆1,979億円(過去最高)
  3. 住友林業:2兆2,675億円(過去最高)
  4. 旭化成ホームズ:1兆343億円(初の1兆円超え)
  5. セキスイハイム:5,362億円
  6. 一条工務店:5,664億円(非上場・グループ計)
  7. タマホーム:1,977億円(3期連続減収)

3-3 平均坪単価ランキング(2025年度実績)

順位 会社名 平均坪単価(万円) 平均総額(万円) 平均床面積(坪)
1 旭化成ホームズ(ヘーベルハウス) 148.3 5,937 40.02
2 三井ホーム 145.0 5,724 39.47
3 住友林業 140.7 4,860 34.54
4 積水ハウス 137.0 5,642 41.17
5 大和ハウス工業 131.1 5,310 40.50
6 パナソニックホームズ 126.4 5,134 40.59
7 ミサワホーム 117.2 4,000 34.12
8 セキスイハイム 114.2 3,830 33.51
9 トヨタホーム 103.6 3,580 34.54
10 ヤマダホームズ 79.7 2,734 34.30

 

出所:住宅産業新聞社「2025年度実績」の1棟単価・1棟床面積データを坪単価換算(1坪=3.30579平米)。この坪単価は「総額」ベースであり、営業初期や広告で提示される「本体価格」の坪単価とは異なる。一条工務店・タマホームはこの集計対象(非開示企業)に含まれていないため、次項で別途整理する。


4. 広さ別の価格感 ― 30坪・40坪・50坪・60坪

注記:各社は「◯坪の家がいくら」という価格表を公式には出していない。以下は3-3の平均坪単価に坪数を掛けた単純計算の概算であり、公式発表数値ではない。実際は延床面積が大きいほど坪単価は下がり、小さいほど上がる傾向があるため、あくまで目安として見てほしい。

会社名 坪単価 30坪(約100㎡) 40坪(約132㎡) 50坪(約165㎡) 60坪(約198㎡)
旭化成ホームズ 148.3万円 約4,449万円 約5,932万円 約7,415万円 約8,898万円
三井ホーム 145.0万円 約4,350万円 約5,800万円 約7,250万円 約8,700万円
住友林業 140.7万円 約4,221万円 約5,628万円 約7,035万円 約8,442万円
積水ハウス 137.0万円 約4,110万円 約5,480万円 約6,850万円 約8,220万円
大和ハウス工業 131.1万円 約3,933万円 約5,244万円 約6,555万円 約7,866万円
パナソニックホームズ 126.4万円 約3,792万円 約5,056万円 約6,320万円 約7,584万円
ミサワホーム 117.2万円 約3,516万円 約4,688万円 約5,860万円 約7,032万円
セキスイハイム 114.2万円 約3,426万円 約4,568万円 約5,710万円 約6,852万円
トヨタホーム 103.6万円 約3,108万円 約4,144万円 約5,180万円 約6,216万円
ヤマダホームズ 79.7万円 約2,391万円 約3,188万円 約3,985万円 約4,782万円

 

一条工務店・タマホームは住宅産業新聞の集計対象外(非開示)のため上表には含めていない。市場の比較サイトが独自調査している坪単価レンジは、一条工務店が概ね60万〜85万円/坪、タマホームが概ね45万〜70万円/坪とされているが、これは各社公式発表ではなく民間比較サイトの推定値である。仮にこのレンジの中央値(一条工務店72.5万円、タマホーム57.5万円)で計算すると、

会社名(推定レンジ中央値) 30坪 40坪 50坪 60坪
一条工務店(目安) 約2,175万円 約2,900万円 約3,625万円 約4,350万円
タマホーム(目安) 約1,725万円 約2,300万円 約2,875万円 約3,450万円

 

この表を見て気づくのは、同じ40坪の家でも、選ぶメーカー次第で建物本体の価格だけで約2000万円〜3000万円もの差が出るという事実だ。ここに土地代・付帯工事・外構・太陽光や蓄電池といった費用が加わるため、大手ハウスメーカーで家を建てる場合、総額7,000万〜8,000万円という水準は決して珍しくない。


5. 業界の未来予想図

数字を並べると、業界の分岐点は「大手 vs 中堅」ではなく、「戸数を追う戦略から抜け出せたかどうか」にあることが見えてくる。

① 新築絶対量の縮小は不可逆

2025年の新設住宅着工戸数は74万667戸で、1963年以来62年ぶりの低水準。持家・貸家・分譲住宅すべてが3年連続で減少している。少子高齢化という構造要因である以上、短期的な反転は見込みにくい。

② 大手は「単価×多角化×海外」で生き残る

積水ハウス・セキスイハイム・旭化成ホームズは、戸建て単体の戸数が伸びなくても、単価上昇・海外M&A・都市開発・不動産仲介・リフォームで売上高最高益を演出している。大和ハウスが23道県から撤退し、都市部の高価格帯(5,000万円以上、1億円超は倍増方針)に集中すると発表したのも、この延長線上にある。国内の一般層向けの家づくりからは、大手が静かに撤退を始めている。

③ ローコスト帯・中堅は淘汰リスクが高い

タマホームは3期連続の減収減益で、主力の注文住宅事業が営業損失に転落した。同じローコスト帯のアエラホームは民事再生に入り、ロゴスホールディングスの支援を受けている。ハウスメーカー全体の倒産件数は2026年上半期で118件(前年同期比87.3%増、13年ぶりに100件超え)に達しており、「戸数(価格の安さ)」で勝負するビジネスモデルそのものが、資材高・人件費高・金利上昇の直撃で崩れつつある。

④ 国も「新築」から「ストック活用」へ舵を切った

2026年3月に閣議決定された新たな住生活基本計画(2026〜2035年度)は、住宅政策の軸足を新築中心から既存住宅の活用へ明確に転換した。背景には団塊世代の相続による住宅の大量発生が見込まれていることがある。今後10年は、新築着工の減少が続く一方で、リフォーム・既存住宅流通・相続関連の周辺市場が相対的に拡大していく可能性が高い。

⑤ 中間層の選択肢は「建売」「中古リノベ」へシフトする

大手が高単価路線に舵を切り、ローコスト帯が淘汰される中、これまで大手の注文住宅を検討していた中間層の一部は、一括大量発注でコストを抑えた建売住宅や、中古物件のリノベーションへ流れていくと見られる。「注文住宅で家を建てる」という選択肢自体が、相対的に狭い層のものになっていく可能性がある。


結論

今後生き残るのは、戸数を追わずに顧客生涯価値(単価・リフォーム・住み替え・相続まで含めた関係性)を取りにいける企業であり、逆に戸数と価格の安さだけで勝負するモデルを持つ企業から淘汰が進む。この構図は、すでに各社の決算数字にはっきりと表れている。

家を建てるという意思決定は、人生で一番大きな買い物の一つだ。家を買う人も、住宅業界に転職しようとする人も、今後の流れを見て決めてほしい。


出典
  • 住宅産業新聞「2025年度大手ハウスメーカーランキング」(2026年6月30日付、housenews.jp)
  • 住宅産業新聞「主要住宅企業10社の2025年度の1棟あたりの平均単価・床面積」
  • 各社決算短信・決算説明資料(大和ハウス工業、積水ハウス、住友林業、旭化成ホームズ、積水化学工業、タマホーム)
  • 国土交通省「建築着工統計調査・令和7年計」
  • 国土交通省「新たな住生活基本計画」(2026年3月閣議決定)
  • 東京商工リサーチ「ハウスメーカーの倒産、26年上半期9割増の衝撃」
  • 一条工務店 会社概要(非上場、業界メディア推計値含む)

大和ハウスの海外事業の実態

大和ハウスが現在、海外事業で最も成功を収めている国はアメリカ(米国)です。同社は「2026年度に海外売上高1兆円」という目標を掲げていましたが、アメリカ市場が牽引する形でこれを1年前倒しで達成し、直近(2026年3月期)の海外売上高はすでに1兆235億円を突破しました。そのうち約8割にあたる8,063億円をアメリカ単国で稼ぎ出しています。

アメリカで展開している住宅事業の主な特徴は以下の通りです。

  • 現地ビルダー(建築会社)の買収による展開
    大和ハウス自らが日本から進出して家を売るのではなく、「スタンレーマーチン」「キャッスルロック」「トゥルマーク」という、米国内で豊富な実績を持つ現地ホームビルダー3社を買収し、グループ化しています。

  • 「スマイルゾーン」への集中投資
    気候が温暖で、人口増加や企業進出が著しいアメリカ南部一帯(サンベルト地域周辺など)を同社は「スマイルゾーン」と定義しています。需要が旺盛なこのエリアに的を絞って、住宅開発や建設・販売を行っています。

  • 販売している住宅のスタイル
    日本の大和ハウスのような鉄骨プレハブ住宅ではなく、現地ビルダーによる「典型的なアメリカンスタイルの木造戸建て住宅」や「タウンハウス(連棟式住宅)」が中心です。富裕層向けだけでなく、初めて家を買うエントリー層(ミレニアル世代)や、買い替え層向けの大規模な分譲コミュニティ開発(マスタープラン・コミュニティ)も手がけています。

  • 賃貸事業も拡大
    戸建て販売にとどまらず、都市部での高層賃貸住宅(シカゴの31階建てアパートメントなど)の建設・運営にも事業を広げています。

つまり、大和ハウスは「日本の家を海外で売る」のではなく、「資本力と開発ノウハウを使い、現地の人が好むアメリカの家を現地企業に作らせて売る」という投資・デベロッパー的な立ち回りで、アメリカの旺盛な住宅需要を取り込んでいます。国内の一般向け新築戸建て市場に見切りをつけつつあるのは、こうした「稼げる海外市場」をすでに確立しているためです。